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名古屋地方裁判所 昭和43年(タ)155号 判決 1971年12月18日

原告 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 山本正男

同 戸田喬康

(タ)第一五五号事件被告 甲野ハナ子

(タ)第一五四号事件被告 乙山雪子

<ほか三名>

右被告ら訴訟代理人弁護士 木村信雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(請求の趣旨)

(昭和四三年(タ)第一五五号事件)

原告と被告甲野ハナ子の昭和二三年二月二六日名古屋市東区長に対する届出によってなされた婚姻は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(昭和四三年(タ)第一五四号事件)

被告乙山雪子、同甲野月子、同甲野二郎及び同甲野フミ子は原告の子ではないことを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

〔請求の原因〕

(昭和四三年(タ)第一五五号事件)

一、原告は、戸籍上、昭和二三年二月二六日名古屋市東区長に対する届出によって、被告甲野ハナ子と婚姻した旨の記載がなされている。しかしながら、右婚姻は、原告に被告と婚姻する意思がなく、原告の不知の間になされたもので、無効である。

二、被告ハナ子は、昭和一九年一〇月二五日に原告の兄甲野太郎と婚姻したが、太郎は昭和二一年三月二〇日死亡したので、何者かが原、被告間の婚姻の届出をしたものと推察されるが、原告は、かつて一度も被告ハナ子と婚姻する意思を持ったことはなく、まして婚姻届に署名捺印したこともない。

(昭和四三年(タ)第一五四号事件)

一、原告と(タ)第一五五号事件の被告ハナ子との婚姻は、同事件の請求原因において述べたとおり、無効である。

二、(一) 被告雪子は昭和二三年五月二七日、原告とハナ子間の長女として出生した旨

(二) 被告月子は、昭和二四年一二月八日、原告とハナ子間の二女として出生した旨

(三) 被告二郎は、昭和二六年二月二〇日、原告とハナ子間の長男として出生した旨

(四) 被告フミ子は昭和二八年一二月八日、原告とハナ子間の三女として出生した旨

及び、いずれも父である原告が届出た旨、戸籍に記載されているが、原告とハナ子とは婚姻したことも、また同衾した事実もないので、同被告らはいずれも原告の子ではない。

〔被告の答弁事実に対する認否〕

被告の抗弁事実はすべて否認する。

〔請求の趣旨に対する答弁〕

主文と同旨の判決を求める。

〔請求の原因事実に対する答弁並びに抗弁〕

一、原告主張の戸籍にそれぞれ原告主張の記載のなされている事実は認めるが、その余の原告の主張はすべて争う。

二、原告と被告ハナ子の婚姻は双方の婚姻する意思の合致に基づくものであり、又、その子である被告雪子、同月子、同二郎及び同フミ子はいずれも原告を父とするものであり、それぞれの出生届は、被告雪子につき訴外亡甲野多助が原告名義で、被告月子、同二郎及び同フミ子については原告自身が、これをなしたものである。

三、仮りに婚姻届のうち原告が作成すべき部分について、亡多助が作成したとしても、それは同人が原告の意思ないし依頼に基づき代書し押印したものである。そして、原告も婚姻届提出後本訴提起前まで右事実を充分承知していたのである。

四、婚姻届、出生届につき、原告に仮にその意思がなかったとしても、夫婦生活の継続により追認したものである。

〔証拠〕≪省略≫

理由

一、昭和二三年二月二六日名古屋市東区長に対する婚姻届によって、原告が被告ハナ子と婚姻した旨の戸籍上の記載がなされている事実並びに、戸籍上に、被告雪子が昭和二三年五月二七日原告と被告ハナ子との間の長女として出生した旨、被告月子が昭和二四年一二月八日原告と被告ハナ子との間の二女として出生した旨、被告二郎が昭和二六年二月二〇日原告と被告ハナ子との間の長男として出生した旨、被告フミ子が昭和二八年一二月八日原告と被告ハナ子との間の三女として出生した旨、及びいずれも父である原告が届出た旨戸籍に記載されている事実はそれぞれ当事者間に争いがなく、かつ成立に争いのない甲第一号証(筆頭者甲野一郎の戸籍謄本)によってこれを認める。

二、ところで、≪証拠省略≫によれば、原告と被告ハナ子との婚姻は、原告の亡父甲野多助を中心とする親族会議によって、原告にとっては、戦病死した亡兄太郎の妻であった被告ハナ子を無理強いの形で押し付けられたもので、当時A子という恋人があって既に子供まで出来ていた同女との仲を断切らざるを得なかった原告としては、既にそのはじまりから非常に意に満たなかったものであったこと、右婚姻生活は、原告より年長であり、且つ農家の出身であった被告ハナ子がはた目から見ても夫たる原告よりその父多助を大事にしているかのようなよそよそしさを感じさせる不自然さを持っていたものであること、また、以上のような事情から通常の婚姻の成立に伴う結婚式とか披露宴とかいったものは行われず、二人の同棲の始められた疎開先における挨拶廻りが行われたのに過ぎないこと、同棲をはじめて半年余りで原告が家出をして名古屋に赴き、そこで刑事問題を惹き起し、拘留され、二審の執行猶予の判決によって家出の年の翌年(昭和二三年)一〇月頃釈放され、既に疎開生活をやめて名古屋に戻っていた家族のもとに引取られたこと、右家出期間中に被告雪子の出産がせまって来たので、原告と被告ハナ子との婚姻届を多助が作成(記載・提出)したこと、父多助の死亡の前及びその直後の一年間父とのいさかいから家出した原告は信仰を通じて知り合った丙川なつ子の許に引取られて生活し、父の死亡によって再び兄弟から呼び戻されたこと、原告は昭和三八年三たび家出をし、ついにそのまま家に戻ることなく本訴に及んだもので、右同居の期間においても短期間の家出は他に数多く行われていたこと等の諸事実はこれを認めることができる。

しかしながら、それ以上の事実、すなわち、原告と被告ハナ子との間に婚姻意思がなかったとか、婚姻の届出が両当事者の意思に反するものであるとか、原告と被告ハナ子との間に性的結合がなかったとか、被告ハナ子を除くその余の各被告が原告の子ではないとか、(更に一歩進んで亡父多助の子であるとか、)等の事実については、これを肯定ないしは推測する≪証拠省略≫は、≪証拠省略≫並びに鑑定人古田完爾の鑑定の結果(原告と被告雪子、同月子、同二郎及び同フミ子との間の親子関係のかなりの蓋然性が認められるとする)に照らし、いまだ信用し難く、他に右事実を認定するに足る証拠はない。

却って、≪証拠省略≫を綜合すると、原告と被告ハナ子との間には、不承不承ながら婚姻意思が存在し、従ってその届出も、原告の父亡多助によって事実行為がなされたものではあるが、前示のような事情によりいまだ両当事者の意思に基づかないものとはいえないし、仮に右届出の時点において原告より多助に対し明示的な依頼がないとしても、原告は、その後の一〇年以上に及ぶ同棲生活の継続により、少くともこれを追認したものと認められる。

三、そうだとすると、原告の被告ハナ子に対する請求及び原告と被告ハナ子との婚姻の無効を前提とする原告の被告雪子、同月子、同二郎及び同フミ子に対する各請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきものであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田宏)

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